はじめに:Synology NASでリモートワークが変わる!
多機能なSynology NASは、セキュアなリモートワーク環境の構築に強力な味方となります。本ガイドでは、Synology NASの多彩な機能と、それらを活用したリモートワーク環境構築の具体的なポイント、そして特に注意すべきセキュリティ面について詳しく解説します。あなたの会社の働き方改革を、Synology NASで加速させましょう!
Synology NASでできること:豊富なアプリケーションで業務を効率化
Synology NASは、DSM (DiskStation Manager) というOS上に様々なアプリケーションをインストールして利用できる点が大きな特長です。リモートワークに必要な機能は、以下のSynologyアプリケーションで実現可能です。
- AD機能: Synology Directory Server (旧 Active Directory Server)
Windows ServerのActive Directoryの代替として、ユーザー、グループ、ドメインの管理をNAS上で行えます。煩雑なユーザー管理を効率化し、セキュリティを強化します。 - Office: Synology Office
NAS上で文書、スプレッドシート、プレゼンテーションを共同編集できます。Google WorkspaceやMicrosoft 365のように、チームでのリアルタイム共同作業を実現します。 - Calendar: Synology Calendar
グループや個人のカレンダー管理、予定共有が可能です。チーム全体のスケジュールを可視化し、スムーズな連携をサポートします。 - Drive: Synology Drive Server
Google DriveやOneDriveのようなプライベートクラウドストレージ機能を提供。PCとNAS間でファイルを同期したり、ウェブブラウザやモバイルアプリから安全にアクセスしたりできます。どこからでも必要なファイルにアクセスできるため、業務効率が格段に向上します。 - Mail Server: MailPlus Server & MailPlus
NASをメールサーバーとして運用できます。WebメールクライアントのMailPlusも提供され、メール管理をNAS上で一元化できます。 - Photo: Synology Photos
写真やビデオの管理、共有、自動バックアップが可能です。プロジェクトの画像素材や社内イベントの写真なども一元管理でき、アクセス性も高まります。 - Chat: Synology Chat Server
SlackやMicrosoft Teamsのようなリアルタイムチャット、ファイル共有、グループ会話が可能です。リモートワークにおけるチームコミュニケーションのハブとなります。
セキュアなネットワーク構築の鍵:Synology NASへの安全なアクセス
Synology NASへのセキュアなリモートアクセスを確立することは、リモートワーク環境構築において最も重要なポイントです。
- ファイアウォールの強化
企業のメインファイアウォール(NASの前に設置)で、NASへのアクセスを厳密に制御しましょう。さらに、NASのDSM自体のファイアウォール設定も忘れずに行い、不要なポートは閉じ、信頼できるIPアドレスからのアクセスのみを許可することで、セキュリティリスクを最小限に抑えます。 - VPNゲートウェイの設置(必須)
強く推奨するのは、Synology NAS自体をVPNサーバーとして設定するのではなく、別途専用のVPNルーターまたはファイアウォール(UTM機能付きなど)を設置し、それを通してNASにアクセスする方法です。VPNルーターは、IPsec VPNまたはSSL-VPNをサポートし、多要素認証と連携できるものが望ましいです。Synology NASを直接インターネットに公開する形でのVPNサーバー運用は、セキュリティリスクが非常に高いため避けましょう。 - リバースプロキシの設定(推奨)
Webベースのサービス(Office, Calendar, Driveなど)へのアクセスには、NASの前にリバースプロキシサーバーを配置することを推奨します。これにより、NASの特定のポートを直接インターネットに公開することなく、安全にウェブサービスを提供できます。リバースプロキシはSSL/TLS終端、WAF機能、負荷分散の役割も担い、セキュリティと安定性を向上させます。 - ドメイン名とSSL証明書
各サービスにアクセスするためのドメイン名を取得し、信頼できるSSL/TLS証明書を適用して通信を暗号化することは必須です。これにより、通信の盗聴や改ざんを防ぎます。 - インターネット回線の帯域
Synology Driveでのファイル同期やWeb会議など、リモートワークが増加すると、オフィスのインターネット回線がボトルネックになる可能性があります。十分な帯域を持つ回線を用意し、可能であれば冗長化も検討することで、快適なリモートワーク環境を維持できます。
強固なシステム構築:Synology NASの初期設定と運用
ここでは、Synology NASの具体的な設定と、長期的な安定運用に向けたポイントを解説します。
- Synology DSMの初期設定とセキュリティ強化
デフォルトの管理者アカウントは無効化し、複雑なパスワードを持つ新たな管理者アカウントを作成しましょう。さらに、管理者アカウントには多要素認証(MFA)を必須に設定することで、不正アクセスのリスクを大幅に低減できます。DSMファイアウォールを有効にし、許可するIPアドレスとポートを最小限に制限し、自動ブロック機能を有効にして不正なログイン試行をブロックすることも重要です。SSH/Telnetなどの不要なサービスは無効化し、攻撃される可能性のある箇所を減らしましょう。 - Synology Directory Serverの設定
ドメインを作成し、ユーザーとグループを登録します。Windows PCをドメインに参加させれば、NAS上の共有フォルダへのアクセス権限などを集中管理できるようになり、管理者の負担を軽減できます。 - Synology Drive Serverの設定
チームフォルダを作成し、部署ごとのアクセス権限を適切に設定しましょう。バージョン管理のポリシーを設定することで、誤削除や上書きからの復元も容易になります。各クライアントPCにSynology Drive Clientをインストールし、必要なフォルダを同期設定すれば、いつでもどこからでも必要なファイルにアクセスできる環境が整います。 - Synology Office, Calendar, MailPlus Server, Photos, Chatの設定
各アプリケーションのインストールと基本的な設定を行います。特にMailPlus Serverでは、DNSレコード(MXレコード、SPF、DKIM、DMARC)の設定が非常に重要ですので、専門知識を持つ担当者が行うか、外部のサポートを受けることを推奨します。各サービスの利用権限も、ユーザーやグループごとに適切に設定し、セキュリティと利便性のバランスを取りましょう。 - バックアップとリカバリ
NASのデータだけでなく、NASのシステム設定も定期的にバックアップすることは非常に重要です。さらに、重要なデータは、NASの外部(別のNAS、外付けHDD、クラウドストレージなど)にも二重でバックアップすることで、万が一の事態に備えましょう。災害時を想定したリカバリ計画(DRP)を策定し、定期的にテストすることで、有事の際に迅速な復旧が可能になります。 - 監視とログ管理
Synology NASのログセンターや通知機能を活用し、異常なアクセスやシステムイベントを常に監視しましょう。これにより、セキュリティインシデントの早期発見・対応が可能になります。 - ソフトウェアアップデート
DSMおよび各アプリケーションは、常に最新バージョンにアップデートし、脆弱性対策を怠らないようにすることが非常に重要です。
知っておきたい!Synology NAS運用における注意点
Synology NASは多機能で魅力的ですが、エンタープライズレベルのリモートワーク環境の「中核」として全てを任せるには、いくつかの重要なトレードオフとセキュリティ考慮事項があります。
- 単一障害点(SPOF)のリスク
NASが停止すると、AD、ファイル共有、メール、Office、チャットなど、ほぼすべての業務機能が停止してしまう可能性があります。Synology High Availability (SHA) を利用してHAクラスタを組むことは可能ですが、それでもデータセンター全体の障害には対応できません。停電対策(UPS)、ネットワーク冗長化、空調などの物理的環境の整備が必須となります。 - パフォーマンスとスケーラビリティの限界
CPU、メモリ、ディスクI/Oは、業務規模が大きくなるとボトルネックになる可能性があります。特にMail ServerやDriveの同期、Officeの同時編集など、多数のユーザーが利用すると性能が低下する可能性があります。ユーザー数増加への対応には限界があることを理解しておく必要があります。 - セキュリティリスク
インターネットへの直接公開は極力避けるべきです。リバースプロキシやVPNルーターを介さず、NASのポートを直接インターネットに公開することは、攻撃の標的となりやすく非常に危険です。セキュリティアップデートの適用は自社で行う必要があり、遅延はリスクに直結します。大規模なDDoS攻撃に対する防御は困難である点も認識しておきましょう。 - 運用管理負荷
各種サービスの安定稼働、バックアップ、監視、セキュリティアップデート、トラブルシューティングなど、自社で専任の管理者を置く必要があります。特にMail Serverの運用には専門知識が必要です。 - 災害対策(DR)の難しさ
自社でNASを運用する場合、大規模災害時に備えたDRサイトの構築や、クラウドへのバックアップ戦略が別途必要になります。 - Office機能の互換性と機能制限
Synology OfficeはMicrosoft Officeとの互換性はあるものの、複雑なマクロや高度な機能は完全に再現できない場合があることに注意が必要です。
総合的な推奨事項:Synology NASを最大限に活用するために
Synology NASは、オンプレミス環境におけるプライベートクラウドストレージ、または一部のアプリケーションサーバーとして非常に有用です。しかし、企業のITインフラ全体を支えるリモートワークの「唯一の基盤」として全てを賄うのは、特にセキュリティと可用性の観点からリスクが高いと言わざるを得ません。
- ファイル共有(Synology Drive)と写真管理(Synology Photos)に特化
NASの強みを活かし、ファイル共有や写真管理のプライベートクラウドとして活用し、他の機能(AD, Office, Mail, Chat)はより堅牢なクラウドサービス(Microsoft 365, Google Workspaceなど)を利用するのが、最もリスクが低く、効率的です。 - メールサーバーはクラウドサービスを推奨
メールはビジネスの生命線です。セキュリティ、可用性、スパム対策、IPレピュテーション維持の難しさから、Google WorkspaceやMicrosoft 365のような専門のクラウドメールサービスを利用することを強く推奨します。 - VPNゲートウェイは専用機器を導入
NASのセキュリティを強化するためにも、インターネットからの入り口は、より堅牢なセキュリティ機能を持つ専用のVPNルーターやファイアウォールを設置しましょう。
Synology NASは素晴らしい製品ですが、企業のITインフラ全体を支えるには、他のソリューションとの組み合わせや、より高度なセキュリティ対策が必要であることをご理解ください。
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