🎯 STEP 1 のおさらい:なぜ「流用」するのか?
前回の【戦略編】では、「変動性の高い科目」は実績を使い、「固定性の高い科目」は前月値を流用するという基本戦略を確立しました。
今回は、その戦略を具体的な勘定科目一つひとつに当てはめて、「これは流用していいのか?」「これは絶対に実績が必要なのか?」を判断する実践リストを作成します。
このリストがあれば、あなたは迷わず、最速で月次速報値を作成できます。
1. 📝 P/L (損益計算書):利益の精度を保つ判断リスト
P/Lで前月値を流用する目的は、固定費の計算にかかる手間を省略することです。
ただし、金額が大きく変動する可能性がある固定費(変動要素のある固定費)は、可能な限り当月の情報で見積もる必要があります。
✅ 前月流用OK な固定費 (計算・集計を後回しにできる科目)
| 勘定科目 | 暫定使用のデータ | 理由 | 
| 減価償却費 | 前月の確定値 または 年間予算の月割額 | 会計ルールで毎月ほぼ同額。計算手間が大きいため、暫定流用する。 | 
| 地代家賃・リース料 | 前月の確定値 | 契約で金額が固定。変動しないため、流用 OK。 | 
| 保険料(長期契約) | 年間契約の月割額 | 年間一括費用を按分するため、毎月固定額。 | 
| 役員報酬 | 前月の確定値 | 原則として毎月同額であるため。 | 
❌ 前月流用NGな変動費・固定費 (当月実績または概算が必須)
| 勘定科目 | 必要なデータソース | 理由 | 
| 売上高・売上原価 | 当月の請求書・棚卸データ | 企業の粗利益に直結する根幹の数値。絶対に当月実績が必要。 | 
| 販売手数料・ロイヤリティ | 当月売上高に基づく計算 | 売上に連動して変動するため、前月値を使うと利益が大きくズレる。 | 
| 人件費(変動部分) | 当月の給与計算データ | 残業代や手当で毎月変動する。前月値ではなく、当月の概算で見積もるべき。 | 
| 水道光熱費 | 当月の検針票速報値 | 使用量によって変動。前月値ではなく、当月の情報で概算する方が精度が高い。 | 
2. 💰 B/S (貸借対照表):資金繰りに直結する判断リスト
B/Sで流用 NGの科目は、すべて企業の短期的な支払い能力(流動性)に直結するものです。
これらの残高は、必ず当月実績で確定させます。
❌ 前月流用NGな流動科目 (当月実績が必須)
| 勘定科目 | 必要なデータソース | 理由 | 
| 現金預金 | 月末の銀行残高証明 | 資金繰りの根幹。 残高が日々変動するため、月末確定値が必須。 | 
| 売掛金・買掛金 | 当月の売上・仕入実績 | 当月の営業活動量に直結し、月末残高が大きく変動するため。 | 
| 棚卸資産 | 当月末の棚卸データ | P/Lの売上原価の確定と連動するため、当月実績が必須。 | 
| 未払法人税等 | 当月のP/L利益見積もり | P/Lの利益によって計上額が変わるため、前月値を流用できない。 | 
✅ 前月流用OKな固定科目 (計算・確認を後回しにできる科目)
| 勘定科目 | 暫定使用のデータ | 理由 | 
| 建物・土地などの固定資産 | 前月末の残高 | 新規の取得や売却がない限り、残高は変化しないため。 | 
| 長期借入金 | 前月末の残高 | 毎月の返済額が少額で、大きな増減がないと仮定して流用する。 | 
| 資本金・利益剰余金 (期首) | 前月末の確定残高 | 企業の資本構造は安定しており、原則として変動しないため。 | 
3. ⚠️ 最重要事項:速報値を使う上での鉄則
この「流用OK/NGリスト」は、あくまで速報を出すためのツールです。
流用した場合は、以下の鉄則を守らなければなりません。
- 最終調整の徹底: 流用したすべての科目(特に減価償却費)は、速報発表後、必ず正確な値に置き換える修正仕訳を徹底してください。
- 特別な取引の反映: 「固定費」に分類していても、当月に大規模な修繕費や新たな固定資産の購入などがあった場合は、前月値を使わずに、必ずその取引を速報値に反映させましょう。
この詳細な判断リストを使えば、もうあなたは「どの数字をいつまで待つか」に迷うことはありません。
次は、このリストをそのまま組み込んだExcelテンプレートを使って、実際に手を動かすステップです!
 
 



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