【導入(課題):意気揚々からの、青天の霹靂】
やってしまった。――心の中で、静かに、しかし盛大に頭を抱えました。
約1年近くお付き合いさせていただいている、全国シェア80%を誇る老舗製造業のお客様。
前回、私はこの会社様に、既存の商品にIoTセンサー技術を掛け合わせ、新たな付加価値とサービス展開を生み出す「攻めのDX提案」を行いました。
社長をはじめ、営業・技術の各課長も「これは面白い!一緒にやろう」と大興奮。
今回は、その新プロジェクトに関する契約締結の場のはずでした。私は「さあ、次のステージへ進むぞ」と意気揚々と訪問したのです。
しかし、打ち合わせが始まるや否や、社長から開口一番、重苦しい声が響きました。
「林さん、いままで頼んでいたことが終わっていないのに、新たな契約は結べないよ」
一瞬、頭の中が真っ白になりました。
【現場のリアル(葛藤):動かない現場と、社長の焦り】
「終わっていない、とは……どういうことでしょうか?」
我に返って問い返すと、社長は指を折って現状を並べました。
「総務・経理のRPAは稼働していない。新工場のロケーション管理も未完成。kintoneのピッキングアプリも動いていない。弥生販売の部品登録も終わっていないじゃないか」
私は愕然としました。なぜなら、それらは私の中では「完了」していたからです。
RPAとアプリは納品済みでレクチャーも終え、「不具合があれば連絡ください」と伝えてある状態。
ロケーション管理はExcelでの作成を課長にお願いし、部品登録も方法をアドバイスして、あとは現場で入力するだけの段取りになっていたはずでした。
しかし、社長の話を聞くうちに、背景が見えてきました。 新工場の竣工式やメンテナンス業務が重なり、キーマンである課長が長期出張で不在。
現場には「DXを実行する時間」が決定的に不足していたのです。
システムは「納品」されても、現場が「運用」できなければ、社長にとっては「終わっていない」のと同じ。
この認識のズレが、今回の事態を招いていました。
【突破口(プロの洞察):痛みを共有し、役割を再定義する】
ここで私は、コンサルタントとしての「誠実さ」とは何かを試されました(と 思っています)。
ただ謝罪して現場の作業をすべて引き受けるのは簡単です。
しかし、それはお客様のためになりません。私は意を決して、契約内容の確認と、プロとしての役割定義(線引き)を切り出しました。
「社長、申し訳ありません。しかし、現在結ばせていただいている『アドバイザー契約』は、あくまで知見の提供とアドバイスが中心です。現場の業務ディレクションや実行そのものは含まれておりません」
「もし、私が遅延部分をカバーするとなれば、それはディレクターとしての役割となり、契約外の別途料金が発生してしまいます」
少しの沈黙の後、社長はハッとされた表情になり、冷静に頷いてくださいました。 「……確かに、契約を結ぶ前、最初にそうおっしゃっていましたね」
月数万円のアドバイザー契約で、現場のPM(プロジェクトマネジメント)まで担うことは不可能です。
- アドバイザー: 現状を踏まえた最善策の手順と手法を教える。
- コンサルタント: さらに踏み込み、スケジュール調整や業者選定まで伴走する。
- ディレクター: 社内調整も含め、部長職のように管理・実行を担う。
この役割の違いとお値段の違いを、改めて丁寧にご説明し、納得していただきました。
【成果と未来(結び):頂いた宿題と、確かな一歩】
無事、誤解は解け、既存の契約関係は維持されました。
しかし、私は今回の指摘を真摯に受け止めています。いくら契約範囲外とはいえ、社長の望む「稼働(成果)」に至っていなかったのは事実です。
「よし、頂いた宿題を片付けよう!」
私は次回訪問時までに、RPA、新工場ロケーション、ピッキングアプリの詳細な「使用法マニュアル」を完成させることを決めました。
現場の方々が、時間がなくても直感的に動かせる、そんなマニュアルです。
ちなみに、その後社長と二人きりで話し合い、IoTセンサーの新商品開発は、特許や権利関係の課題から協業を見送ることとなりました。
残念ではありますが、これもまたリスクを未然に防ぐプロの判断です。
DXは、最新技術を入れることではありません。現場の人たちが使いこなし、会社が変わる。
その泥臭いプロセスこそが本質です。
私はこれからも、契約というルールを守りつつ、お客様の痛みに寄り添い、真に「動くDX」のために伴走し続けます。まずはマニュアル作りから。次の一歩へ進みます!
コーポレートサイトhttps://www.rin-tech.netを開設しました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。


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