リモートワークを成功させる!ネットワーク・システム構築ガイド
リモートワークの普及に伴い、安全かつ効率的なネットワーク・システム構築が企業の喫緊の課題となっています。本ガイドでは、オンプレミスとクラウド、それぞれの環境でリモートワークを実現するためのポイントと注意点を詳しく解説します。
成功の鍵は「準備」にあり!共通の考慮事項
オンプレミス・クラウドどちらのシナリオでも、以下の共通事項を事前に検討・決定することが、スムーズな導入と運用の基盤となります。
- セキュリティポリシーの策定: リモートアクセスやデータ利用、デバイス管理に関する明確なルールを定めます。
- 認証基盤の確立: 多要素認証(MFA)は必須です。利便性向上のため、シングルサインオン(SSO)の導入も検討しましょう。
- デバイス管理:
- 会社貸与デバイスの利用を原則とし、MDM/MAM(モバイルデバイス管理/モバイルアプリケーション管理)を導入します。
- BYOD(個人所有デバイスの業務利用)を許可する場合は、より厳格なセキュリティ対策が必要です。
- 通信の暗号化: VPN(Virtual Private Network)など、すべての通信を暗号化する仕組みを導入します。
- データ保護・バックアップ: 機密データの流出防止策と、定期的なバックアップ計画を策定します。
- 監視・ログ管理: 不正アクセスや異常を検知するための監視体制を構築し、ログを適切に管理します。
- 従業員への教育: セキュリティ意識の向上やツールの使い方について、定期的な教育を実施します。
- 通信環境の確保: 従業員の自宅のインターネット回線が業務に耐えうる速度と安定性を持っているか確認し、必要に応じて推奨事項を提示します。
シナリオ1:オンプレミスサーバーでリモートワーク環境を構築する
既存のオンプレミス環境をベースにする場合のポイントです。
ネットワーク構築のポイント
- ファイアウォールの強化:
- IPS/IDS(侵入検知/防御システム)を導入し、外部からの攻撃をリアルタイムで検知・防御します。
- WAF(Web Application Firewall)を導入し、Webアプリケーションへの攻撃から保護します。
- 業務に必要なポートのみを開放し、不要なポートは閉じましょう。
- VPNゲートウェイの設置:
- SSL-VPNはクライアントソフトウェアなしでブラウザから利用でき、利便性が高いです。
- VPN接続時に多要素認証を必須とします。
- 同時接続数や帯域幅を考慮し、十分な性能を持つ機器を選定しましょう。
- DMZ(DeMilitarized Zone)の構築: 外部からアクセスされるWebサーバーやメールサーバーなどはDMZに配置し、内部ネットワークとの分離を徹底します。
- ネットワークセグメンテーション: 部署やシステムごとにネットワークセグメントを分割し、アクセス制御を細かく設定することで、万一の侵入時にも被害の拡大を防ぎます。
システム構築のポイント
- リモートアクセス基盤の整備:
- VDI(Virtual Desktop Infrastructure)/DaaS(Desktop as a Service): 仮想デスクトップ環境を構築し、セキュアに会社のデスクトップ環境にアクセスできるようにします。データはサーバー側で管理され、端末へのデータ残存を防ぎます。
- ターミナルサービス/リモートデスクトップサービス(RDS): 特定のアプリケーションやデスクトップへのアクセスを提供します。
- セキュアなファイルサーバーアクセス: VPN経由でのファイルサーバーアクセスを許可します。
- グループウェア/コミュニケーションツールの導入・活用: Web会議システム、チャットツール、プロジェクト管理ツールなど、リモートワークで必須となるツールを導入しましょう。オンプレミスで構築する場合は、Microsoft Exchange Server, SharePoint Server, Skype for Business Serverなどを検討できます。
- パッチ管理と脆弱性管理: サーバーOS、ミドルウェア、アプリケーションのパッチ適用を自動化・定期化し、脆弱性診断を定期的に実施して迅速に対応します。
- バックアップとリカバリ: 重要なデータやシステムのバックアップを定期的に取得し、オフサイト保管や世代管理を行います。災害時を想定したリカバリ計画(DRP)を策定し、定期的にテストを実施しましょう。
- ログ管理と監査: 各種サーバー、ネットワーク機器のログを集中管理し、SIEM(Security Information and Event Management)などを活用して異常を検知します。定期的なログの監査も重要です。
オンプレミス環境で特に注意すべき点
- 初期投資と運用コスト: ハードウェア、ソフトウェアの購入費用、ライセンス費用、電気代、空調費など、初期投資と運用コストが大きくなりがちです。
- 拡張性の限界: ハードウェアの増強には時間とコストがかかり、急なユーザー数増加に対応しにくい場合があります。
- 保守・運用負荷: 物理的な機器のメンテナンス、トラブル対応、セキュリティ対策など、システム管理者の負担が大きくなります。
- 災害対策: 自社で災害対策(DR)を講じる必要があり、冗長化やバックアップ体制の構築にコストと労力がかかります。
- インターネット回線の帯域: VPN接続やVDI利用が増加すると、インターネット回線の帯域が不足し、業務効率が低下する可能性があります。十分な帯域確保と冗長化を検討してください。
シナリオ2:クラウドサーバーでリモートワーク環境を構築する
AWS、Azure、GCPなどのパブリッククラウドサービスを活用する場合のポイントです。
ネットワーク構築のポイント
- VPC(Virtual Private Cloud)/VNet(Virtual Network)の設計: クラウド上に論理的に隔離されたプライベートネットワークを構築し、適切なネットワーク設計を行います。
- VPN接続/専用線接続:
- サイト間VPN(Site-to-Site VPN): オフィスネットワークとクラウドVPC/VNetをVPNで接続します。
- クライアントVPN(Client VPN): 各従業員の端末からクラウドにVPN接続できるサービスを利用します。
- 専用線接続(Direct Connect/ExpressRouteなど): 高速かつ安定した通信が必要な場合に検討します。
- セキュリティグループ/ネットワークACLの設定: 仮想サーバーやデータベースなど、個々のリソースに対するアクセス制御を細かく設定し、不要なポートはすべて閉じます。
- WAF/ロードバランサーの活用: クラウドプロバイダが提供するWAFサービスを利用してWebアプリケーションを保護し、ロードバランサーを活用してアプリケーションの負荷分散と可用性を確保します。
- CDN(Content Delivery Network)の利用: Webコンテンツの配信速度を向上させ、ユーザーエクスペリエンスを向上させます。
システム構築のポイント
- ID管理と認証基盤の統合: クラウドプロバイダのIAM(Identity and Access Management)サービスや、Azure AD Connectなどを利用し、既存のADやIDPと連携させます。多要素認証(MFA)は必須です。
- 仮想デスクトップ環境の利用: DaaS(Desktop as a Service)を活用しましょう。Amazon WorkSpaces, Azure Virtual Desktop, Google Cloud VDIなどを利用することで、VDIの構築・運用をクラウドプロバイダに任せ、管理負荷を軽減できます。
- SaaS(Software as a Service)の積極的な利用: グループウェア(Microsoft 365, Google Workspace)、CRM、ERP、コミュニケーションツールなど、可能な限りSaaSを利用することで、自社でのサーバー管理が不要になります。ただし、SaaSプロバイダのセキュリティポリシー、データの保存場所、準拠規格などを十分に確認が必要です。
- データベースサービスの利用: Amazon RDS, Azure SQL Database, Cloud SQLなど、マネージドデータベースサービスを利用することで、データベースの運用管理負荷を軽減できます。
- オブジェクトストレージの活用: Amazon S3, Azure Blob Storage, Google Cloud Storageなど、大容量で安価なストレージサービスをバックアップ、ファイル共有、データレイクとして活用します。
- 監視・ログ管理サービス: クラウドプロバイダが提供する監視・ログ管理サービス(CloudWatch, Azure Monitor, Cloud Loggingなど)を活用し、システムの状態を監視し、異常を検知します。
- 自動化・IaC(Infrastructure as Code)の推進: クラウド環境の構築・管理を自動化し、ヒューマンエラーを減らし、デプロイの速度を向上させます。
クラウド環境で特に注意すべき点
- クラウドに関する知識・スキル: クラウドサービス固有の知識や設計スキルが必要です。
- コスト管理: 利用した分だけ料金が発生するため、リソースの最適化や不要なリソースの停止など、厳密なコスト管理が必要です。予期せぬ高額請求のリスクもあります。
- セキュリティ責任の分担(責任共有モデル): クラウドプロバイダは「クラウドのセキュリティ」に責任を持ち、ユーザーは「クラウド内のセキュリティ」に責任を持つというモデルを理解し、適切に設定する必要があります。設定ミスによる情報漏洩のリスクが常にあるため、設定のレビューや自動監査ツールの活用が重要です。
- データレジデンシー(データの所在): データの保存場所が国内外のどこになるのか確認し、規制や法令順守の観点から問題がないか確認しましょう。
- ベンダーロックイン: 特定のクラウドプロバイダに依存しすぎると、将来的な移行が困難になる可能性があります。マルチクラウド戦略も検討視野に入れます。
- ネットワークの安定性: クラウドへのアクセスはインターネット経由となるため、利用者のインターネット環境に依存します。専用線接続などを活用しない限り、ネットワークの安定性は確保されにくい場合があります。
まとめ
オンプレミスとクラウドのどちらを選択するかは、既存のIT資産、予算、必要なセキュリティレベル、運用体制、将来的な拡張性など、様々な要因によって判断が異なります。
多くの場合、オンプレミスとクラウドを組み合わせた「ハイブリッドクラウド」戦略も有効です。例えば、基幹システムはオンプレミスに残し、リモートワークに必要なツールやデータ共有基盤はクラウドを利用するといった形です。
いずれのシナリオにおいても、セキュリティを最優先事項とし、計画的かつ段階的に導入を進めることが成功の鍵となります。導入後も、定期的な見直しと改善を怠らないようにしてください。
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